ショートショート「役目」
私はこの瞬間のために、数えきれないくらいの時を過ごしてきた。
そして目の前の生物は今、手元にある書物の一行を観て、この世界の全てを改変する意思を持つだろう。
私はその生物に言った。
「私の役目は終わった」
ここまで本当に長かった。
まずこの生物を産み出すために世界の土台を作った。そしてその生物がその内容を理解できるようにするまで成長させた。またこの瞬間、この個体に見せるための時代背景や血統までも操った。そしてやっとこの瞬間に至るのである。
終わったと同時に私は疑問に思った。今までその疑問は抱いてはいたが、気が遠くなるほどの時間を過ごしていたためいつしか忘れていた。
『私は一体誰が何のために私をここに作ったのだ?』
すると頭上から声が聞こえた。
「私の役目は終わった」